金属オキソ酸化合物の実験
* オキソ酸と言っても、硫酸、硝酸、リン酸、スルホン酸なども含むが、ここでは金属のオキソ酸 ・・・ クロム酸、マンガン酸、タングステン酸などを扱うものとする。
1. クロム・アンモニウムミョウバンの作成:
二クロム酸(重クロム酸、Y)ナトリウムを出発物質として、その硫酸溶液をエタノールで還元すると、アセトアルデヒドを発して、硫酸クロム(V)溶液が残る。(高校でもやるアセトアルデヒド生成の実験。 ただしクロム混酸による酸化によってアルデヒドが生成するという汎用性は無く、その他のアルコールでは
カルボン酸にまで酸化されてしまう。) 二クロム酸Naはカリウム塩よりも水への溶解度が大きい(25℃73g/100ml)ので扱いやすい。(六価クロムは毒性が強いので、粉塵や溶液廃棄など取扱注意。 廃棄するときは3価に還元する。)
Na2Cr2O7・2H2O(298.04) 60g を、30%硫酸 H2SO4(98.08) 100mlに溶かして蒸留容器に入れ、エタノールC2H5OH(46.07) 40mlと 30%硫酸50mlの混合液を
少しづつ滴下すると、何の熱源も無しに、滴下ごとに反応が起こって発熱し、沸点の低いアセトアルデヒド(沸点20.2℃)の蒸気を発する(酢酸も少しできる)ので、氷水で冷やした容器で受ける。 そこからさらに排気管を設け排気を外に出す。(アセトアルデヒドは火気注意)
Na2Cr2O7・2H2O + 3 C2H5OH + 4 H2SO4 → Cr2(SO4)3 + 3 HCHO + Na2SO4 + 9 H2O
残った3価クロムの溶液に、残りの硫酸 50mlに 硫安 (NH4)2SO4 (132.14)26g を溶かした溶液を加えて、約250mlまで加熱濃縮する。 この時点で溶液は、一度煮沸し50℃以上になったので、硫酸クロムが非晶質の状態で 濃い緑色を呈している。 ( 緑色塩: 〔Cr4(SO4)4〕(SO4)2 ⇔ 紫色塩: 2Cr2(SO4)3 )
この溶液を、20−30℃で、2週間から1か月放置して、「熟成」(夏の気温?)すると、 クロム・アンモニウムみょうばん NH4Cr(SO4)2・12H2O の
紫色の結晶が析出するので、冷却・吸引ろ過し、少量の冷水で洗い、風乾させる。 (約80g、多少酢酸臭い) 再結晶は40℃以下で行う。 クロム金属を得るには、そのまま溶液を作り陰極液として電解する(↓)。
§ 電解金属クロムを得る方法は、米国等では戦前から開発され、クロム鉄鉱((Fe、Mg)Cr2O4)にソーダ灰を加え酸化焙焼して、クロム酸ソーダ、二クロム酸ソーダ、無水クロム酸とし、硫安を加え(クロムが非晶質のうちに)鉄みょうばんを晶出させて残っている鉄を除き、それからこの実験にようにシックナーで熟成してクロムアンモニウムミョウバンの結晶を得る。硫酸ナトリウムは共存しても問題ない。(参考) これを溶かした液は、硫安分が緩衝液となって、隔膜で陽極と隔てた pH=2.1〜2.4の陰極液となって、陽極には鉛板を用い、ステンレス板陰極の上に電解する。 クロムは水素過電圧が低い(0.32V、cf.亜鉛0.7V)ので、酸性が強いと水素ばかり発生して効率よく電解できない。逆に、pHが高すぎると加水分解する。 また、無水クロム酸(CrO3、Y)浴は、硬質・光沢クロムめっきに通常用いられるが、電解精錬するには大きな電位差のゆえに3価クロムよりも効率が悪い。
2. 過マンガン酸カリウムの作成:
過マンガン酸カリウム KMnO4 は、実験室的な作成方法は昔とあまり変わっていない。(工業的には、マンガン酸カリウムの溶液に
塩素を吹き込んで酸化することにより、収率を上げている。)
水酸化カリウム KOH と、酸化剤として塩素酸カリウム KClO3 (あるいは硝酸カリウム KNO3)を共に溶融しておき、撹拌しながら二酸化マンガン MnO2(W) の粉末を少しづつ加え、10分くらい弱い赤熱に保つと、マンガン酸カリウム K2MnO4 ができる。
(マンガン酸カリウムは500℃以上で分解して亜マンガン酸カリウム(K2MnO3)になるので、赤熱にしてはならない。また、今回筆者は失敗したが、二酸化マンガンをはじめから混ぜてしまうと、これが触媒となって塩素酸カリウムが一気に酸素を放出してしまうので酸化が進まず、収率が悪化した。(1回目は約8gしか取れなかった。
2回目は一気に発泡しないように、少しづつ容器の側面に付けるようにして焙焼して、収量約20gになった。))
水酸化カリウム(56.11) 50g、 塩素酸カリウム(122.55) 25g をステンレスカップ(300ml)に入れ、加熱し溶融する。(アルカリ溶融は非常に危険なので、防護面は必ず着ける事) そこへ、ステンレスのへらでよくかき混ぜながら二酸化マンガン(86.94) 50g(多め)を少しずつ入れて、酸化反応をさせて10分くらいごく弱い赤熱に保つ。
3 MnO2 + 6 KOH + KClO3 → 3 K2MnO4 + KCl + 3 H2O
冷却したら、水で煮出し、400mlくらいにして温める。
それに二酸化炭素 CO2 を吹き込む。(1時間くらいかかる。筆者はドライアイス(50〜90g)を用いた) すると、不均一化反応が起こって マンガン酸イオン(6価、緑色)が、過マンガン酸イオン(7価、赤紫色)と
二酸化マンガン(4価)に分かれる。 この時、ビーカーの横から見て、新たに十分な量の茶色のMnO2が沈殿しているならば、過マンガン酸が効率よくできているということになる。
3 K2MnO4 + 2 CO2 → 2 KMnO4 + MnO2↓ + 2 K2CO3
未反応の、あるいは沈殿した二酸化マンガン、容器の鉄酸化物などの不溶解成分を、液がまだ温かいうちに、ガラスろ紙(筆者はADVANTECのGA−200を用いた。紙は腐食して使えない)を用いて吸引ろ過して除く。 濾液を
約170mlまで加熱蒸発させ、空冷の後、氷冷して結晶(針状結晶)をなるべく多く析出させる。
(* 各成分の単独の溶解度は、 KMnO4: 65℃25g/100ml、20℃6.4g/100ml、 KCl: 20℃34g/100ml、0℃28g/100ml、 K2CO3: 20℃112g/100ml、 塩素酸カリウム(溶解度低い、20℃7.3g/100ml)は塩化カリウムにほぼ100%分解するので残らない。
混合物の溶解度は共通イオン効果によって低めの値になる。
cf. KNO3: 25℃36g/100ml、0℃10% (* KNO3を用いたこれと同様の実験では、半分くらい残って分離不可能だった(大きな無色のKNO3の結晶) ×)、 KNO2: 0℃281g/100ml。 また、CO2の代わりに硫酸を用いると、硫酸カリウムの溶解度の低さから分離不可能になる。)
同様にガラスろ紙で吸引ろ過し、少量の冷水で洗い、ビーカーに入れて加温しながらヘラで混ぜて乾燥する。 光によって分解するので、褐色びんに入れて保存する。(8g、20g)
3. 五酸化バナジウムの作成:
金属バナジウムが中国から安く取り寄せられたので、これを材料として、希酸やアルカリには溶けないが、濃硝酸には NO2 を発してよく溶けるので、とりあえずこの方法で溶液化した。
試験管レベルの予備実験では、バナジウムの価数は、硝酸溶解時には 3価で、青色を呈している。これにアルカリ(NH3)を反応量加え、酸化物(V2O3、黒色)の水和物の沈殿にすると酸化が容易に進む。
これに、過酸化水素水 H2O2を少し加えると酸化が進み、4価の VO2(黒色、4価)水和物や
5価の V2O5 (橙色、5価) 水和物などの混合物となり、褐色沈殿になる。
予備実験では、ここで H2O2 を入れすぎると、沈殿が全て溶けてしまった。
金属バナジウム V (51) 10g (=約0.2mol)を300mlフラスコに入れ、排気管を付けて屋外に出し、1:1硝酸
HNO3 (63)120ml(等量0.3mol + NO2発生分0.3mol
= バナジウムの6倍mol)を加えると、激しく反応してNO2ガスを発生して発熱して溶ける。(換気注意) 反応後、1000mlビーカーに移し、水を足して約300mlとした時点で 溶液は青色(3価)を呈している。一部は加水分解して黒色沈殿ができている。
これに、1:1(14%)アンモニア水 NH3(17)を約70ml(等量0.3mol)加えると褐色の沈殿が生じ、これに30%過酸化水素水
H2O2 (34)(取扱注意) 約11ml(等量0.1mol)を加えて酸化する。 さらに過剰量分の1:1アンモニア水10mlと、30%過酸化水素水
H2O2 (取扱注意)約10ml加えると、できた沈殿はいったん溶けて濃いオレンジ色の溶液となる。
これを約200mlになるまで弱火で加熱して、過剰のアンモニアと過酸化水素を追い出すと、溶液の色は薄くなって、多量のオレンジ色の沈殿(結晶質)ができてくる。(沈殿の存在下での加熱なので、ごく弱火にして、突沸に注意する。)
常温まで冷えてから硬質の濾紙で吸引ろ過すると、結晶質の沈殿が集められる。 これは、メタバナジン酸アンモニウム NH4VO3 (5価、薄い黄色)ではなく、さらにV2O5と重合したトリバナジン酸アンモニウム NH4V3O8 (5価、オレンジ色)が主成分となっている。(乾燥させて 約20g、この状態で保存する)
ここから必要量に応じて、るつぼで空気にさらしながら加熱すると、一度黒色になり、アンモニア・窒素の放出(アンモニア臭)を経て、400−690℃(融点)で酸化して、五酸化バナジウム V2O5 (5価、橙黄色)を得る。 直接炎を入れるなどして690℃以上に加熱すると、溶融してるつぼにくっつくので注意。
また、トリバナジン酸アンモニウムは、アンモニア水と過酸化水素の混合液にはよく溶けるので、これにセラミック・ウールを浸して焼くと、五酸化バナジウムが浸透した触媒ができる。 五酸化バナジウムは、硫酸製造の時、二酸化硫黄の三酸化硫黄への酸化触媒に用いられる。
4 NH4V3O8 + 3 O2 → 6 V2O5 + 2 N2 + 8
H2O
* 混合溶液からの硫酸によるpH=1.6−2の操作による沈殿法は 参照
4. タングステン酸カルシウムの作成:
タングステン・カーバイド WC の粉末(または、タングステン粉末)を出発材料とする。 金属タングステンWや
炭化タングステンWCは非常に硬く、重く、融点・沸点が非常に高く、バルクでは化学的にも反応性が鈍い。
しかし、微粉末状(1−4μ、粉末冶金(やきん)用)になった物は 酸化に弱く、容易に三酸化タングステンWO3(Y)になる。 酸化剤として 塩素酸カリウムを用いると爆発的に燃焼するので、ここではもう少し緩やかな
硝酸カリウムを酸化剤(兼 タングステン酸塩のアルカリ)とした。それでも、花火のように激しく燃焼した。
タングステン・カーバイド WC (195.9) 20g と、硝酸カリウム
KNO3 (101.1) 20g を、ニッケル皿(0.3tのニッケル板を折り曲げて作ったもの)の上に乗せ、軽く混ぜる。
上から炎を当てて加熱すると、燃焼してタングステン酸カリウム K2WO4 を生成する。(このとき白煙が出るので、換気注意 or 屋外でする事。かなりのタングステン分が飛んでしまう)
これを水に溶かし出し、未反応の WCや 不溶解成分をろ過して除き、ろ液に塩化カルシウム CaCl2 10gを溶かした水溶液を加えると、白色のタングステン酸カルシウム(灰重石) CaWO4 (287.9)が沈殿するので吸引ろ過して集め、乾燥して保存する。 このときpHは
ほぼ中性なので、共沈水酸化カルシウムの量は低いと考えられる。 (収量:
約12g)
(* 一方、抽出液に塩酸を加えて タングステン酸化物の水和物にすると、ゲル状になって沈降もろ過もできなくなるので
注意)
タングステン酸カルシウムに塩酸を加えると、タングステン酸化物の水和物ができ、これにアンモニア水を加えると、パラタングステン酸アンモニウム (NH4)10(H2W12O42)・4H2O が生じて温めるとよく溶ける。(温水にはよく溶け、20℃では4g/100ml) これを加熱濃縮し、冷却すると結晶が沈殿するので、吸引ろ過・洗浄・乾燥する。
また、パラタングステン酸アンモニウムを 600℃以上に加熱すると、アンモニアを放って分解して、黄色の 三酸化タングステン WO3 になる。
§ 過マンガン酸カリウムは、筆者が小6の時からの因縁の物質で、グリセリンとの発火燃焼の当時のTV映像がきっかけとなって、これが化学への興味を引き起こし、ひいては科学好きになり、他の科目もそれに引っ張られ成績もぐんと上がりました。 当時、家で、不均化反応に硫酸を使って過マンガン酸カリウムを作ろうとしましたが、多量の硫酸カリウムが混じってしまい、グリセリンをかけても煙だけが出ただけでした。 でも今回久しぶりに作ってみると、ちゃんと純粋な結晶ができました。
人間はうそつきでも、物質は正直です。 神様が造られた物質原子は、創造主のご性質を帯びて、厳格に正確に反応します。それゆえ世界の誰がやっても、何回やっても同じです。再現性があり、普遍的です。 それは、神様が厳格で正確なお方であり、その性質が被造物にも反映されているからです。
神の2大性質は、「聖」と 「愛」です。 神は、語られたことを必ず成し遂げる「聖」なる方であり、万物の創造主です。 一方、神の「愛」は、御子キリストの十字架によって、完全に表わされました。 信じる私たちは、罪赦され、無条件に神の子供とされたのです。
(参考) 生物における主の主権